
By: Kevin Dooley
漫画の持ち込みで挫折の連続だった僕だが、そんな状態を変えるべく、僕は自分が本当に描きたい漫画を描いて持ち込みに行く事を決めた。
そして、その時に持ち込みに行った出版社で、僕に初めて正式に担当さんが付く事になった。
担当が付いたことで、より漫画家デビューの道が具体的にリアルな実感を伴って感じられるようにった僕は、雑誌で連載が取れる事を目指して凄く張り切っていた。
自分の描きたくてしかたなかったファミリー漫画で、連載を目指して頑張れる事が何より嬉しかったのだ。
ようやく辛かった日々が報われる。
そう思った。
しかし、本当に辛くて大変な日々が訪れるのは、ここからだったのだ。
すべてを見失った日々
担当さんが付いてから当時、僕は日々の限られた時間の中で、自分が自由に使える時間は全て漫画制作のために使っていた。
出来る限りのアイデアを詰めようとした。
自分の描きたかった漫画とはいえ、独りよがりの作品にならないように、色々な人に家庭生活のネタや実体験を通した話を聞いてみたり、自分で出来る限りのリサーチなどもしていた。
それは全て、より良い漫画を描くため。
読んだ人が、暖かい気持ちになるようなファミリー漫画を描くためだった。
そうして、一つ一つ、作り物でない漫画を作ろうとしていた。
作り物でないもの作ると言うと、矛盾するような言い方ではあるが、漫画制作をした事がある人なら、僕の言いたい事を分かってくれる人も多いのではないかと思う。
特に漫画のキャラクター作りには、命を吹き込むつもりで取り組んだ。
それぞれが大切な存在だった。
特にメインキャラクターには、意味があった。
その漫画の根幹だったと言っていい。
そして、そのメインキャラクターが後に大きな問題の始まりになるのだ。
漫画を見失う
ネーム作りをしては、担当さんにネームを送ってチェックをしてもらう日々が続いていた。
評価される部分もあれば、修正、リテイクを要求される部分もあった。
それも、最初のうちは何ら問題はなかった、僕の漫画には確かに改善しなければいけない問題がいくつかあったし、プロレベルの原稿に仕上げるために、全体的なレベルアップが必要なのは僕も十分理解していたからだ。
しかし、問題は徐々に姿を現し始めた。
最初のうちこそ的確だと思えた担当さんのアドバイスや指摘だったが、だんだんと僕との考えが合わなくなっていった。
それでも、僕なりに担当さんの意見や真意を理解しようと、何とか妥協点を探りながらネームを描き続けた。
こんな事は、漫画制作には付き物のよくある話だと思っていたからだ。
ここを上手く乗り越えてこそプロになれる道があると、自分に言い聞かせた。
しかし、そんな中、ある決定的な問題が起こる。
何回かの打ち合わせの後で、メインキャラクターの一人を作品から削除するように求められたのだ。
それは、担当さん一人の意見では無く、雑誌側の意志でもあったらしい。
簡単に言えば、最終結論であり、実質ぼくには選択する余地がなかった。
いや、当時の僕には選択する余地が無いように思えた、と言った方が正しいかもしれない。
実際には、もっと色々な選択肢があったのかもしれないし、上手に説得する道もあったかもしれない。
結局の所は、僕の実力不足と未熟さがもたらした事だと今は思っている。
今思えば、当時の僕は、けなげで従順で、そして、無知で勇気のない脆弱な漫画家志望だったのだ。
その提案がなされた、何日かの後。
僕は自分の漫画の根幹になるはずだった、メインキャラクターの一人を作品から外す事に同意した。
既にこの時、僕は大切な事を見失っていたのかもしれない。
信じるものを見失った
その後は、見事なまでに下降していくだけだった。
話作りに必要だったはずのキャラクターを失ってから、それでも、何とか面白い話を作ろうと思った。
出来る限り気持ちを切り替えて、色々なアイデアを盛り込んでは新しいネームを描いた。
しかし、ネームを作るたびに広がるのは担当さんとの溝ばかりだった。
自分が面白いと思ったアイデアは、ことごとく却下された。
代わりに求められたのはページ数の削減、セリフ量を減らす事、元々少ないページで描いていた上に、僕の漫画はセリフで見せる部分も大きな要素だったので、これは僕にとっては強烈な要求だった。
それでも、こんな事は漫画制作にはよくある話だと自分に言い聞かせた。
ページ数を削り、セリフも削り、重要だった大切な大切なキャラクターまで削った。
同時に僕は、僕自身の作品を削っていたんだ。
気が付くと、僕が確かに作ったはずの、僕のモノではない作品が目の前にあった。
その頃にはもう、僕には何のために漫画を描いているのかすら分からなくなっていた。
何を描いても、面白いモノを描いている気がしない。
いや、面白いって何だったかすら分からなくなっていた。
自分の感覚も、自分の漫画も信じられなくなっていた。
いつしか、連載を目指すという話も自然と消えていた。
完結編へ続く