
By: Kevin Dooley
大学を卒業し、いくつかの出版社に漫画の持ち込みに行くようになった僕だが、その結果は惨憺たるものだった。
デビュー出来そうな漫画を描こう描こうと思えば思うほど、出来上がった漫画の評価は下がっていくばかりだった。
このままではいけないと思い、一念発起して、今度は自分が本当に描きたい漫画を描いて持ち込みに行こうと、僕は一本の原稿を仕上げる事になる。
念願のファミリー漫画を描く
僕はそもそも、ファミリー漫画が描きたくて漫画の道を志したのだ。
家族みんなが楽しめるような、暖かい漫画を描きたい、そう思った。
しかし、流行や環境などのせいにして、ファミリー漫画を描くのをためらっていた。
それは当時、新人でいきなりファミリー漫画というジャンルでデビューする事が、かなり厳しい状況だったのを知っていたからだ。
だからこそ、僕は流行モノでも何でも良いから、とりあえずデビューして、ある程度キャリアを積んでからファミリー漫画を描きたいと思っていた。
自分ではそれが賢い選択だと思っていたのだが、既に前の文章で書いている通り事態はそれどころでは無い状況になった。
このままでは漫画家としてのキャリアどころかデビュー自体が難しい。
そんな追い詰められた心境の中で、最後の賭けをするつもりで一本のファミリー漫画を描き上げ持ち込みに行った。
初めて担当が付く
初めて本当に描きたい漫画を仕上げて、出版社に持ち込みに行った。
その出版社は、僕の尊敬する漫画が連載されている雑誌を出版している会社だった。
編集さんと軽く挨拶を交わし、いよいよ原稿を見て貰う事になった。
この出版社に持ち込みに行ったのは、この時が初めてではあったが、他の出版社には何度か持ち込みに行っていたので、この辺のやり取りは慣れたものだ。
編集さんに原稿を見て貰っている間、僕はやたらボンヤリとしていたのを覚えている。
寝不足でボンヤリしていただけかも知れないが、どこか悟ったような、何だか全てが他人事の映画を見ているような心境だった。
たった4ページのギャグ主体のファミリー漫画を、やたら時間を掛けて読んでいるなと、編集さんを見て思った。
この後、何かしら社会人らしいコメントをしなければいけない編集さんも大変だな、そんな風に冷めた気持ちで見ている自分もいた。
そして、いよいよ運命の時。
原稿を読み終わった編集さんが、僕の原稿に対してコメントし始めたのだ。
ギャグについては褒めて貰う事ができた、そしてキャラクターに対して、いくつか良い点と修正点を言われ、漫画の専門的、技術的な部分についてもいくつかアドバイスされた。
かなり丁寧にアドバイスしてくれたと思う。
だが、そこまでは今までもよくある事だ。
問題は、結局のところ僕の原稿を評価するのか、しないのかだ。
そして、今までと違った事は、この編集さんは僕の原稿を評価してくれたことだ。
そう、つまり、この編集さんは僕の初めての担当になってくれたのだ。
束の間の喜び
夢を見てるような気分だった。
現実感の薄い言葉を僕の両耳が聞いた。
「これから連載を目指してがんばりましょう。」
そんな言葉を聞いた気がする。
その言葉を聞いた僕はかなり平坦なリアクションだったと思う。
「宜しくお願いします。」と僕の声帯が抑揚のない音を発しているのが分かった。
そして名刺を貰い、今後の簡単な打ち合わせをし、何本かネームを作るように言われたのを覚えている。
実感が湧いたのは出版社のロビーを出た後だった。
ロビーを出て、直ぐ僕はガッツポーズをした。
僕は認められた、それも僕の描きたかった漫画で、僕の憧れていた漫画が出版されている会社でだ。
まだデビューしたわけでもなかったが、とても嬉しかったのだ。
今までの挫折の連続が報われた気がした。
「ようやく漫画家への一歩を踏み出せた!これで惨めな自分から脱出できる!自分の夢が言い訳じゃなく、ちゃんと目指していた道である事を証明できる!」そう当時の僕は思った。
僕の目の前を覆っていた霧が全て晴れたように感じ、僕はこれからの人生に期待を持って家路についた。
そう、ここで終われば見事なハッピーエンドだっただろう、漫画制作に悩み挫折を経験した青年が、最後には本当に自分の描きたかった漫画を描いて漫画家デビューを果たす。
それこそ漫画に描いたようなハッピーエンドだ。
しかし、現実はもっと厳しかった。
僕が本当の挫折を知るのはこの後になる。
僕はこの後、大きなミスをする事になる。
そして、本当に大事な事とは何なのかを知る事になるのだ。
後編へ続く